【中華蕎麦うゑず】行列のできるつけ麺製作所

2021-09-02

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山梨県は、国中地方と郡内地方という、二つの区域で構成されている。

そして、国中地方は、さらに峡中・峡北・峡西・峡東・峡南という五つの地域に分類することができる。

そのうちの一つ、峡中地域は、
甲府市や甲斐市、中央市、昭和町といった面々で構成されており
位置的にも、そして、経済的にも、山梨の中心的存在である。

そして、この峡中地域を南北に縦断する道路を「アルプス通り」、
東西に横断する道路を「甲府バイパス」と呼ぶ。

これらが、車社会が浸透した山梨県民にとって、主要かつ重要な道路であることに議論の余地はない。

今回訪問したお店は、そんなアルプス通りと甲府バイパスと交わる、峡中の交通の中心地に、ほど近い場所にある。

そのお店のことは知らなくとも、アルプス通りを利用したことがある人ならば、一度は目にしたことがあるだろう…

あの行列を。


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「ああああ、お腹空いたなあ」

車の運転席に乗り込んだボクは、シートベルトをしめるや否や、大きな声で不満をもらした。

予定していた打ち合わせの時間を大きく超えて、ランチタイムに突入しても、話は続く。

当たり前だけど、ボクのお腹の都合なんておかまいなし。


「Hunger is the best sauce.」


助手席のハヤマさんは、車のダッシュボードから取り出したガジェット誌を開きながら流暢な英語で返した。


「空腹は、最高のスパイスさ。とてもおいしくランチを楽しめることでしょう」


「それは、そうかもしれませんが」


「というわけで、今日のランチは、そんなスパイスを十分に堪能できるお店にしようか。

アルプス通りのかっぱ寿司が見えたら起こしてね、おやすみー」


「わかりました」


ハヤマさんがのび太くん並みの速さで眠りについたのを見届けると、ボクは、ゆっくりと車を出した。


9月の日差しは、まだ夏の名残に満ちていて、目を細めながら西へと進む。


貢川交番南の信号を左折し、アルプス通りを南へ。


マクドナルド、スシロー、そして、かっぱ寿司。


「ハヤマさん、かっぱ寿司が見えましたよ」


「んー、あと5分」


「いや、5分も待てないですよ!もう着きますよ!

え、どうすればいいんですか?あー、通り過ぎる!とりあえず、スタバに入りますからね!」


この通りにしては珍しく、幸いにも対向車がいなかったため、右折してスタバへ。


ドライブスルー完備のお店のため、そのままドリンクを注文することにした。




「ハヤマさん、スタバに着きましたけど、何か飲みますか?」


「うーん、コーヒーフラペチーノで」


ハヤマさんは、ガジェット誌を顔に乗せたまま、眠そうに答えた。



「何かカスタマイズしますか?」


「ヤサイマシマシカラメマシアブラスクナメニンニク」


「なんて!?」


「ヤサイマシマシカラメマシアブラスクナメニンニク」


「えーと、野菜を大盛り、スープのタレ多め、背油少なめ、ニンニク入れてオーケーってことですね?」


「そう!」


「いやいや、どこの世界のフラペチーノですか!こんなフラペチーノは嫌だ!とかのネタでありそうな話だけれども!

フラペにニンニクはアウトですよ!スタバとラーメン二郎と夢のコラボ!とかあるかもしれませんけど、そのコラボだけは、どうか夢であってほしい!そう願わずにはいられませんよ!」


「いやー、よくしゃべるねえ。インターフォン越しでも店員さんが困っている顔が目に浮かぶよ。


店員さん、コーヒーフラペチーノをトールサイズで一つお願いします」


興奮する僕をよそに、ハヤマさんは、淡々と注文する。


「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」


店員さんも淡々と返答する。


…なぜだろう、結果的にボクだけがピエロみたいだ。


不満を抱えつつ、ボクも慌てて注文する。


「あ、すみません、あと、グランデチョコレートチップエクストラコーヒーノンファットミルクキャラメルフラペチーノウィズチョコレートソースを一つください」


「なんて!?」


今度はハヤマさんが目を丸くした。



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「ハヤマさん、まだですか…さすがに、ちょっと体力的に…」


目的のお店は、先ほどのスタバからアルプス通りを挟んで東側にあった。


中華蕎麦うゑず。


うゑずの店主は、千葉県松戸市にある「中華蕎麦とみ田」で修業を重ね、地元の山梨にて、本家とみ田の公式独立店として開業。


すぐさま県内屈指の人気店となり、また、県外からも絶えず来客がある有名店として名を馳せた。


とみ田のつけ麺を食したことがあるハヤマさんは


「とみ田クオリティのつけ麺を気軽に楽しめることができるお店が山梨にできたことは、山梨県民にとっての大きな財産だ」


と、鼻の穴を膨らませながら熱弁してくれた。


そんな人気店なので、もちろん、多くの人が押し寄せる。ゆえに、できる行列。



思い返せば、アルプス通りを車で走らせていると、毎回、行列を目にする場所があった記憶がうっすらとある。


というのも、ボクの意識が、毎回、先ほど訪れていたスタバのほうに引っ張られてしまうから、「うっすらと」なんだけど。


時刻は、すでに14時を回っていたが、列はそこまで進まない。


グランデサイズのフラペチーノで一時的に空腹は紛れたものの、残暑は容赦なくボクの体力を奪う。


かれこれ30分近く並んでいたが、思わず、弱音を吐いてしまった。


ハヤマさんは、ガジェット誌で気になったアイテムをスマホでサーチするのを止め、


「Hunger is the best sauce.」

と一言。


「それはわかりますけど、なかなか立ちっぱなしも厳しいものがありますよ」


「富士急ハイランドに行ったことある?」


「はい」


「ジェットコースターは好き?」


「どちらかと言えば、好きですね」


「富士急にFUJIYAMAってジェットコースターがあるでしょう?」


「はい」


「あれって、結構人気があるから、週末に行くと1時間は待つことになると思うけど」


「そうですね」


「そして、これは私見だけど、FUJIYAMAってお得な感じがするんだよね」


「お得…ですか??」


「富士急には、いくつかジェットコースターがあるんだけど、

待ち時間に対しての所要時間、まあ、乗車時間と言おうか、それはFUJIYAMAがダントツに長いんだよね」


「たしかに、FUJIYAMAは乗ってて長いなあ、って感じますね」


「乗車時間は、なんと、3分36秒!カップヌードルなら、若干食べるの出遅れたくらいの感覚だね」


「そんなに!?」


「コースターも高さ79メートルまで登るから、その巻き上げ時間もカウントされているんだろうけど、約3分半、心臓が休まらないのは、十分すぎるくらいの密度の濃い時間だね」


「たしかに。ボクは、コースターが登っていくときの、あのドキドキ感が好きなんですよね」


「わかるよ、店主が怖いって有名なラーメン屋で、粗相をしないようにドキドキしながら食べるあの時間に似てるね」


「…えーと、それは、わかるような、わからないような…」


「とにかく、どんなに長く並んだとしても、その先で待っていることが、なかなか得難い価値のある体験だとしたら今の辛さより、その先の楽しさが感情的に勝るんじゃないのかな?ジェットコースターもラーメンも、通じるところがあるような気がするけどなあ。まあ、期待してなよ、味は保証するよ」


ハヤマさんは、大抵いい加減だけど、ラーメンに関しての期待は裏切らない。


「そうですね、これだけの人数が並ぶってことは、期待していいですよね。

もう少しだけ、がんばって待ちます」



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「おまたせしましたー!!」


「おおおおおおお!!!!」



眼前に飛び込んできたつけ麺に、思わず声をあげてしまった。


パワフルなチャーシューのインパクト。

濃厚なスープ。


きらびやかな太麺。


その整ったルックスに一目惚れしてしまいそうだ。



あれから、さらに待つこと20分。


ようやく、ここまでたどり着いた。


店に入る直前に、店内入口の券売機へ案内され、そのまま食券を渡す形で注文。


つけ麺かラーメンか悩んだが、今回は、つけ麺を選択した。



「…美しい」


ボクの隣では、いつもどおりハヤマさんが、写真撮影会を始めている。


「いただきます!」


「どうぞお先に」


いつものやり取りを経て、実食。


麺の重さに、割りばしがきしむ。


ゆっくりと持ち上げ、スープへと運ぶ。


茶色い海に麺をくぐらせ、引き上げる。


スープがほどよく絡んで、食欲をそそる。


豪快に音を立てて、麺をすする。




お・い・し・す・ぎ・る


脳内に、おいしさと滝川クリステルが駆け抜ける!


お・も・て・な・し


どころの話ではない。



お・い・し・す・ぎ・る!!!



この感動を分かち合いたい!



そう思って、隣を見ると


わ・か・り・ま・す・よ!


ご丁寧に本家のフリつきで、ハヤマさんからレスポンスが来た。


感動とおいしさの渦の中で目を回しながら、無言で食べ進める。


ガツンとくるスープと麺のうまみ。


それらと調和する、トッピングのチャーシュー、味玉、ネギ、のり。


そして、文句なしのボリューム。


これは、長時間並ぶだけの価値がある。




ハヤマさんが注文した特製中華そばとチャーシューご飯も、控えめに言って最高においしいとのこと。


「ここは、FUJIYAMAでしたね」


食後にボクがそうつぶやくと


「それは、なにより」


ハヤマさんは、楽しそうに笑った。


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☆店舗情報☆

店名:中華蕎麦うゑず(チュウカソバウエズ)

住所:山梨県中巨摩郡昭和町清水新居59-1 サンシャイン平岩 103

電話:055-287-8894

営業時間:[月~土] 11:00~17:00(売り切れ次第終了)

定休日:日曜日

食べログの山梨県のラーメン総合ランキング→3位!(2019.10.29現在)
 



★ハヤマさんが食べたもの★

・特製つけ麺 大(1,150円)+ローストチャーシューご飯(330円)

→つるつるの喉越しのストレート太麺に、魚介の風味が香るつけスープは、濃厚かつ雑味
 無し。低温熟成したスモーキーなレアチャーシューと極厚豚バラ炙りチャーシューの
 満足感がすごいぞ。千葉県松戸市にあるレジェンドつけ麺店「中華蕎麦 とみ田」の
 DNAを色濃く受け継いだ完成度は、山梨のみならず全国からつけ麺ファンが押し寄せる
 ほど。ディ○ニーランドのアトラクション並みに待たされるが、待つ価値はじゅうぶん
 あると思う今日この頃。ちなみに、ローストチャーシューご飯は、オニオンソースでさ
 っぱりした味わい。濃厚なつけ麺のチェイサー代わりに注文するのもオススメだぞ^^


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After Story ~え、モバイルオーダーも可能なんですか!?~


2021年9月某日

「ハヤマさん、最近、うゑずの行列見かけなくなりましたね。

初めて訪問したときから、もう2年近く経ちますけど、

やっぱこんなご時世でもありますし、どこのお店も厳しいんですかね」


アルプス通りを運転しながら、相変わらず助手席でガジェット誌に夢中なハヤマさんに話しかけた。


「たしかに、コロナの影響もあるだろうけど、行列がなくなったのは、むしろポジティブな理由からだと思うけどね。あ、ちょうど赤信号」


そう言いながら、ハヤマさんはスマホの画面をボクに見せた。


「LINE…ですか?」


「そう、密を避けるため、LINEでの座席予約サービスが始まったのさ。行列もある意味名物だけど、一番大事なのは、おいしいラーメンを食べられるかどうかってことでしょう?」


「そうですね」


「ちなみに、テイクアウトも始めたみたいだよ。テイクアウト限定のがっつり夜ラーメンってメニューがあるらしい。今夜の夕食は、それにしようかな」


「家や職場でも、うゑずのラーメンが食べられるなんて、いい時代ですね」


「そうだね、悪いことばかりじゃない。どんな困難も糧にして、新しくなっていくのさ、何もかも」


~つづく(これからも)~

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