【アルプス食堂】見た目は食堂、実態は最高。その名は、アルプス食堂!

2019-09-10

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韮崎市街から、国道141号線を北上すると、その店はある。


都会の一等地にあるラーメン店と比べれば、少し寂しさを感じさせる佇まいだが

緑の背景色に包まれたこの場所においては、主張しすぎないくらいの店構えであり、

調和を感じられ、心地よい。


とはいえ、見た目は小さな食堂。プレハブ小屋のようにも見える。

黄色い小さな看板が遠慮がちにアピールするものの

ここが有名なラーメン店であるとわかっていなければ、

わざわざ、立ち寄るほどのインパクトはない。


知る人ぞ知る。地元民に愛される定食屋。そんなイメージのお店。


店の前の駐車場は、白線もなく、空いているところへ思い思いに駐車していくスタイルだ。


「着きましたよ、ハヤマさん」

手ごろなスペースに車を停めると、助手席で爆睡している上司に声をかけた。

「………」

しかし、反応がない。


「着きましたよ!アルプス食堂!ラーメン食べないんですか!!」

今度は、2階の自室から1階の台所にいるお母さんを呼ぶくらいの音量で声をかけた。

すると…

「ラーメン!!!」

ラーメンという言葉に反応したのか、ハヤマさんは、すぐさま、文字通り、飛び起きた。

そして、シートベルトを素早く外すと、ドアを開け、店の入り口へと走り出した。


「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!」

走り出すハヤマさんを追いかけて、慌ててボクも飛びだしたものの
砂利に足を取られて、盛大に転んでしまった。

スーツについた埃をはらい、トボトボと店へと向かう。


スライド式の店舗ドアを開けると、ハヤマさんは、右奥の小上がりでメニューを食い入るように見つめていた。


店内は、中央に8人がけのテーブル席。

左側にカウンター席。右側に小上がりがある。


お昼時を少し外した時間帯だったものの、テーブルと小上がりは満席。

カウンターも、残りの1席が空いている状況だった。


小上がりでは、地元のおじさんたちが、ビール片手にラーメンを食すという、

いかにも、昔ながらの食堂といった雰囲気で、ワイワイと盛り上がっていた。


「いいねぇ、この空気。俺たちも、ビール頼もうか?」

小上がりに腰かけたボクに、ハヤマさんはニコニコしながら提案する。

「ダメですよ。まだ、仕事残ってますからね」

「お願い!ちょっとだけ!先っちょだけでいいから!ねっ?ねっ?」

「なんですか…先っちょだけって…。ダメですよ、課長に怒られますよ」

「課長には、夏の陽射しが強かったって言っとけば大丈夫だよ。ほら、俺、日焼けしたら赤くなるほうだから」

「そういう問題では…」


そんなやり取りをしていると、女性の店員さんが、お水とおしぼりを持ってきてくれた。

「ご注文はお決まりですか?」

「ええと…」


急いでメニューに目を落とす。





んー、どれにしようかな。

麺類、ご飯類、一品料理…どれもおいしそうだけど、ここは、無難にアルプスラーメンにしよう。

「じゃあ、アルプスラー…
「チャーシューメンを2つに、ミニもつ煮丼を1つください」

「かしこまりました」

ボクの注文を遮って、ハヤマさんが早々にオーダーしてしまった。


「ちょっ、ハヤマさん、勝手に注文しないでくださいよ」

「どうせ、無難に、アルプスラーメンを注文すればいいとか、考えてたんでしょ?」

「ま、まあ、そうですけど」


ハヤマさんは、おしぼりで手をふきながら続ける。

「もちろん、無難でもいいと思うよ。でも、無難は無難。それ以上のことは起こらないからね。多少のリスクを背負ってこそ、無難な域を超えて、すばらしい体験ができるのさ」

「そのリスクが、チャーシューメンってことですか?」


「今回は、リスクというより、確定的な話だけどね、俺は、アルプスラーメンもチャーシューメンも、両方食べたことがあるけど、両方とも文句なしにおいしい。ただ、チャーシューメンのほうが、食べたときにより幸せを感じることができるってこと」

「それは、単純に、チャーシューの量が多いから、ですか?」

「たしかに、ラーメンにトッピングを追加することで、量が増えたり、見た目が華やかになったりするけど、ここのラーメンについては、それだけが理由ではないよ」

「えーと???」

「論より証拠。それは、食べてからのお楽しみということで」


ラーメンの話になると、ハヤマさんは饒舌になる。

普段も、それなりにおしゃべりだが、さらに、ギアが1段階上がるのだ。



「お待たせしましたー!」

ほどなくして、ラーメンが運ばれてきた。

「うわぁぁ、おいしそう!!」



しょうゆベースのスープに、大ぶりなチャーシューが4枚。

他にトッピングは、ネギと、メンマ。非常にシンプルな見た目だ。


「…美しい」


着丼するや否や、ハヤマさんがため息を漏らすように呟く。


そして、ポケットから取り出したスマホで、様々な角度から、何枚も写真を撮る。

「いいねぇ、いい表情だ。次、この角度から行こうか。そうそう、カメラ目線で。いいねぇ、最高だよ」


ここは、グラビアアイドルの撮影会場なのかと錯覚してしまう。

ラーメンの撮影をしているハヤマさんは、控えめに言って、変態だ。



「あのー、ハヤマさん、先に食べてますね?」

「オッケー!オッケー!すぐに追いつくから!お先にどーぞ!」

…追いつく、とは?


気を取り直して、ラーメンと向かい合う。

とても食欲をそそる香りだ。


「いただきまーす!」


割りばしを勢いよく割って、麺をすする。

細めのちぢれ麺に、ほどよくスープがからむ。

どちらかというと、あっさり系だが、コクがあり、適度に脂を感じる、


レンゲでスープを一口すする。

もう一口。さらに、もう一口。

…止まらない。真夏の麦茶のように、延々と飲み続けられる味だ。

どうがんばっても、飽きそうにない、中毒性が強い味。


チャーシューを一口噛んでみる。

柔らかい!そして、ジューシー!

さらに、スープとは別の、より濃いしょうゆ感がそこにはあった。


「このチャーシュー、めちゃくちゃおいしいですね!」

月並みな語彙力しかない自分を恥じつつ、ハヤマさんに同意を求める。

「でしょ?」

ハヤマさんは、顔を上げずに同意する。目線は、丼に落としたままだ。

まさに、ラーメンに首ったけ状態。

幸せの形は目には見えない。という言葉があるが、目の前の彼は、間違いなく幸せを体現している。



3枚目のチャーシューを食べ終えたころ、異変に気付いた。

スープの味が、少し変わった気がしたのだ。

正確に言うと、スープのしょうゆ以外の部分の味が、主張を始めたような感覚だ。

どれまでとは異なる旨みの波が押し寄せてくる。


「気づいた?」


顔を上げると、ハヤマさんがニコニコしながら、こちらを見ていた。


「俺も理屈はよくわからないし、お店の人も意図的にそれを狙っているわけではないと思うけど、おもしろいよね」

ハヤマさんは、すでにラーメンを完食し、ミニもつ丼に手を伸ばしていた。


「こうやって、ラーメンの様々な表情を見ることができるのは、幸せなことだと思うよ」

「そうですね」


「ちなみに、さっきの『リスク』の話だけど、こういうことが稀にあるから、初めて行く店では、あえて『特製』と名の付くものや、『チャーシュー』と名の付くものを注文するようにしているんだ。もちろん、すべてのお店でこうなるわけではないから、単純に量が増えるだけで、お金だけ多めにかかっちゃたり、中には、トッピングが要因で好みの味でなくなったりすることもある。そういう意味での『リスク』というわけ」


「なんだか『ラーメンは冒険』って感じがします」

「おおっ、いいこと言うね。ラーメンは冒険か…ラーメン王に、俺はなるっ!」

テンションが上がったハヤマさんは、少年のような心を持っている。


「ごちそうさまでした!」

会計を終え、店を出る。まぶしい陽射しに目を細めた。

カレンダー上では、夏も終わりに近づいているものの、山梨の夏は、まだまだ現役。

熱気がこもる車内に乗り込むと、オートにしたエアコンから勢いよく風が吹き出した。


「そういえば、ハヤマさんって、いつも紺色のポロシャツを着てますけど、何かこだわりがあるんですか??」

「いや、こだわりは特にないけど、無意識に、無難に、ネイビーを選んでしまうんだよね」

「そこは『リスク』取らないんですね」

「お、おう…」

ハヤマさんは、少し照れたような表情で窓の外に目を向けると、ポツリとつぶやいた。


「…ブーメランだったか」



☆店舗情報☆

店名:アルプス食堂

住所:山梨県韮崎市中田町中條1027-1

電話:0551-25-5955

営業時間:[水~日] 11:00~15:00

定休日:月曜日 火曜日

食べログの山梨県のラーメン総合ランキング→7位!(2019.9.6現在)



★ハヤマさんが食べたもの★

・チャーシューメン(900円)

→昔ながらの中華そばを綿密に進化させた感じ。麺は細めのちぢれ麺。
 あっさりだが、コクがある。気づいたらスープを飲み干してしまう魔力。
 醤油が程よく染みこんだチャーシューがいいアクセントになっている。


・ミニもつ煮丼(400円)

→ホロホロに柔らかく煮込まれたもつに、
 タレが染みこんだほかほかご飯がベストマッチ。

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